宇和島鯛めしの極意と老舗の裏側!ほづみ亭が魅了し続ける理由
ほ づみ 亭の暖簾をくぐると、引き締まった出汁の芳香と柑橘の清涼感がふわりと鼻腔をくすぐる。愛媛県宇和島市、JR宇和島駅から程近い路地に佇むこの店は、四国西南部の本物の味を追い求める旅人たちの聖地だ。まだ開店前の厨房からは、包丁がまな板を小気味よく叩く乾いた音が響く。水揚げされたばかりの真鯛を素早くおろす板前の手元には、一切の迷いがない。
地方都市の小さな割烹でありながら、いまや全国の食通がわざわざ飛行機と予讃線の特急を乗り継いでほ づみ 亭の引き戸を引く。朝獲れの鮮魚が放つ圧倒的な生命力、代々守り継がれてきた秘伝のタレ、そして港町ならではの気風の良さ。席に着く前から、こちらの胃袋は完全に掴まれている。
宇和島鯛めしの極秘レシピと老舗の舞台裏を独占取材
宇和島の鯛めしは、一般的な「鯛の炊き込みご飯」とは根本から異なる。生の鯛の刺身を生卵、醤油、みりん、出汁を合わせたタレに絡め、熱々の白米にタレごとかけて豪快にかき込む漁師発祥の料理だ。
今回、特別にその舞台裏を覗かせてもらった。味の骨格を決めるタレには、数種類の削り節と昆布を煮出した濃厚な一番出汁に、地元・南予の甘口醤油を絶妙な比率でブレンドしている。甘みが立ちすぎないよう、隠し味に合わせる柑橘の絞り汁が後味をキリリと引き締める。
「鯛はただ新鮮ならいいってもんじゃない。身の弾力と脂の乗りを見極めて、引く厚みを変えるんです」と厨房の主は語る。薄すぎればタレに負け、厚すぎれば米と一体にならない。白飯の熱で鯛の身がわずかに白濁し、脂が溶け出す刹那。生卵のコクと特製ダレをまとった切り身をご飯とともにかき込めば、噛むほどに旨みが爆発する。
地元民がこっそり教える混雑回避の穴場ルートと予約術
いまや名所となったこの店へふらりと立ち寄り、すんなり席を得るのは至難の業だ。特に週末の昼時は長蛇の列ができる。そこで、界隈をよく知る地元常連客に、確実にこの味にありつくための立ち回りを聞いた。
狙い目は平日の開店直後、11時前の待機、あるいは昼営業終了間際の13時過ぎだ。夜の営業を狙うなら、最低でも2週間前の事前予約が鉄則となる。飛び込みで並ぶ場合、宇和島駅正面の大通りではなく、城山の下を抜ける静かな裏通りを歩いてアプローチすると、街の風情を味わいつつ混雑の気配を早めに察知できる。
さらに通の旅人は、宇和島城の天守閣散策を朝一番に済ませ、その足で開店前の列に並ぶルートを選ぶ。石段を登り切って空腹を極限まで研ぎ澄ませた状態こそが、鯛めしを最も美味しく味わうための最高のスパイスになるからだ。
メディア熱視線の発端となった名作ドキュメンタリーと配信旋風
この店が全国区の知名度を獲得した背景には、映像メディアの存在がある。居酒屋探訪家として知られる太田和彦が自身の番組『太田和彦のふらり旅 新・居酒屋百選』で訪れ、その飾らない佇まいと料理の純度を絶賛したことで、全国の呑兵衛たちの憧れの地となった。
さらにテレビ東京が生んだ人気ドラマ『孤独のグルメ』や各地の食文化を掘り下げるグルメドキュメンタリーの流行が、その人気に拍車をかけた。現在ではTVerでの見逃し配信やNetflixをはじめとするグローバル動画配信サービスを通じて過去の名作番組が繰り返し視聴され、世代や国境を越えたファンが引き寄せられている。
画面越しに伝わる、湯気と包丁の音、そして無駄のない職人の所作。過剰な演出を排した映像の中で堂々と存在感を放っていたあの店へ実際に行ってみたい——そう願う旅行者の熱量は、今なお冷める気配がない。
宇和海が育む本物の郷土料理と進化する伝統の味
鯛めしばかりが脚光を浴びがちだが、この店の真価は宇和海の恵みを余すところなく使い切る多彩な郷土料理にある。宇和島市観光物産協会も推奨する南予の伝統食が、この厨房では昔ながらの手法で生き生きと息づいている。
例えば「ふかの湯ざらし」。淡白なサメの身を湯通しし、酢味噌で味わう一品は、港町ならではの生活の知恵が詰まった逸品だ。香ばしく焼き上げた白身魚の身を擂り鉢で丁寧にすり潰し、麦味噌と出汁を合わせてご飯にかける「さつま汁」も外せない。さらに、竹串に太刀魚を巻きつけて香ばしく焼き上げた「太刀魚の巻焼き」は、甘辛いタレの香りと脂の旨味が酒を進ませる。
奇をてらったフュージョン料理に逃げることなく、祖父や祖母の時代から続く調理法を愚直に守り抜く。その揺るぎない姿勢こそが、時代の波に洗われても色褪せない味の芯を作っている。
地方の観光業と飲食業界を照らす一軒の矜持
全国の飲食業界が人手不足や食材高騰の荒波に揉まれるなか、宇和島の路地裏にある老舗の活況は、地方における観光業のあり方にひとつの明確な答えを提示している。安易なチェーン化や万人受けを狙った均一化ではなく、その土地にしかない食材と文化に徹底的にこだわることだ。
店主はカウンター越しに、訪れた客の一人ひとりに気を配りながら酒を注ぐ。どれほどメディアに取り上げられようと、店が守り続けているのは「地元の人々が日常の労をねぎらう場所」という原点だ。その温かな土台があるからこそ、遠方から訪れる客もまた、旅情の温もりに包まれる。
のれんをくぐり、どんぶりを抱えて一気に飯をかき込む。宇和島の潮風を感じながら味わうその一杯には、この土地が紡いできた豊かな歴史と、料理人たちの誇りがぎっしりと詰まっている。 (出典: ほ づみ 亭(Yahoo!ニュース))